普天間問題と米政府の忘れられた提案

 ヘリコプター事故で懸案の普天間飛行場問題であるが、実は事故に先立つ7月17日に讀売新聞が面白いニュースを伝えていた(もちろんすでに記事はサイトから消えているがヨミークラブに登録すればまだしばらく見ることができる)。名護沖の代替施設が着工の目処もたたないので、空軍と海兵隊の同居は指揮系統が混乱するという理由で米軍が当初渋っていた嘉手納の空軍基地への統合でよいと日本側に打診してきたという話であった。
 普天間の老朽化で、まさに今回のような事故が予測されたことと、名護沖の基地反対運動が選挙戦を控えた本土に飛び火することを恐れたことなどがあるだろう(遠い国の住民の生活が脅かされようが、大半のアメリカ人にとっては対した問題ではなかろうが、ジュゴンとなれば話は別である。なにしろかの国の環境団体の中には「イラクを攻撃すさいはイラク南部に広がる湿原の生態系保護には配慮するように」とアピールしたグループもあったらしい。だから戦争止めろ、じゃなくてね。人よりトリかいっ!?)。
 あと、いわゆる在外米軍再編プロセスの一貫ということもあろう(大量の人員と兵器が移動する以上、一貫した計画のもとに一気にやってしまえるほうが、あとでゴシャゴシャいじるより楽に決まっている)。それによく考えれば、戦場では共同行動をとるのが当たり前なのだから、基地が隣接しているから「指揮系統が混乱する」というのは大した問題ではないはずだ。だとすれば、そもそも1999年の合意の前に、日本政府がその気になれば嘉手納統合案で押し切れたのではないか?、という気もする。
 沖縄の米軍削減という市民運動側の目標からすれば、嘉手納への統合は十分な結末とは言えないが、名護沖の環境破壊を食い止めつつ、あまりに市街に近すぎ、かつ老朽化して危険な普天間を閉鎖させるというのは、一定の成果と言えるだろう。ところが、日本政府側がこれを渋った、と読売は伝えていた。曰く、


 一方、日本政府は、最終報告からさまざまな経緯を経て三年後の九九年にようやく移設先を閣議決定し、名護市に対する振興策を決めた経緯もあり、辺野古沖の代替施設建設をあくまで続行すべきだとの立場だ。
 ただ、政府内には「海兵隊辺野古沖へ移転しなくても、代替施設は純粋な民間施設として使用するとし、建設は地元のために続けるべきだ」(防衛庁幹部)との声も出ている。
 読売もさすがにそこまでは書いていないが、記事が匂わせているのは、要するにヘリポートは公共事業として利権の割り振りが完了しているので、今更計画を変更されては困る、ということである。ここには国際的な安全保障の枠組みに関する議論も、長期的な国家戦略もみじんも存在しない。要するに諌早湾干拓工事などとおなじ、「税金を誰が使うか」という争いである。っていうか、世界最強の政府の提案より国内の利権割り振りを優先するとは、なかなかイイ度胸である。まぁ、このことはなぜか私の気がついた範囲では読売しか記事にしていなかったようなので、なんらかの意図のある記事だったのかもしれない。
 もひとつところが、ヘリが実際に墜落してみると、読売を含めた各紙とも米軍を非難することはあってもこうした「構造」については口をつぐんでいる。もちろん、あの時米軍の提案に賛同していれば今回の事故が防げたというものでもないが、なにがおこっているのか、沖縄以外の国民が自体をより正確に把握するために必要な情報であるには違いない。政府も事故をむしろ名護沖ヘリポートの推進理由にする構えのようである。やはりこれは「米軍問題」というよりも、政府とメディアが情けないのではないか?(そのあたりの情けなさをつけない市民運動側も問題があるのだが)。