『ノーベル賞への後ろめたい道』[Amazon] / [bk1] カール・ジェラッシ 講談社 2001年

 そろそろ今年もノーベル各章の発表が近づいて参りました。わたしゃ関係ありませんが、多くの科学者にとって最大の栄誉として君臨し、一度とれば全ての肩書きを押しのけて"Nobelist"として紹介されるようになるほど権威ある賞ですが、その背景には悲喜こもごも、いろいろなドラマが生まれます。それをうまーくフィクションとしてまとめたのが、自身も経口避妊薬の発明に重要な貢献をしたことなど、世界的な科学者として知られるカール・ジェラッシです。ジェラッシは科学者であると同時に経営者でもあり、また作家や詩人、美術品収集かとしても名の通った多彩な人物で、本書でも芸術や現代哲学にわたる幅広い知識の一端を伺うことができます。そして、本書に登場する科学はかなり現実的なものであり、さらに名誉欲に取り憑かれた科学者たちの行動についても、おおむね何らかの事実や事件に基づく、現実的なものです。
 ただし、そうは言ってもこれは基本的に娯楽小説なので、現実にノーベル賞を巡っておこった事件のような湿っぽさは感じさせないし、ラストも基本的にはハッピーエンドです。読者は、現代の貴人たちが引き起こす(シェークスピア的な)「喜劇」を楽しめるでしょう。