『サンフランシスコ発・社会変革NPO』 [Amazon] / [bk1] 岡部一明 御茶の水書房

 著者は長くアメリカで暮らした後、東邦学園大学教授。サンフランシスコ発・社会変革NPO
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 アメリカの市民活動の圧倒的な層の厚さを見せつけられる。特に、市民の寄付による財団の話は圧巻。例えばタイズ(潮流)財団という、市民による小口の寄付で成り立っている財団の話は圧巻である。タイズ財団の総資産は8000万ドルで、年間助成額は2000万ドル。フォードやロックフェラーのような大富豪の遺産で運営されるアメリカの超巨大財団にくらべれば総資産で100分の1、助成額で10分の1という小型財団だが、日本で市民セクターに助成を行っている財団のほとんどより大きく、日本にあれば助成額で第三位の規模になる。それがごく自然に発生してくる経緯が興味深い(第二章「寄付の文化をつくる」)。
 また、こうしたアメリカ文化を生んだ歴史的背景に触れた第7章は歴史学的にも面白い。企業(法人)というのは当初、特別な場合にのみ許可されており、収益を上げることは厳しく制限されていた。それが、だんだんと今のような利潤追求型の企業に変わってくるわけで、本質的にはNPOと企業はさほど変わるものではなかったという話などは、本来もっと議論されてしかるべきだろう(7章 「市民社会をとりもどす」)。
 アメリカ型の競争社会という。しかし、本書に出てくるフレーズのように「失業したらビジネスを起こそう」というような制度的な敗者復活の保障や、政府より自分たちの身近な活動を信用するというシステムの背景にある市民の哲学を無視して、表面的な部分だけ模倣しても「ダメなアメリカ」ができあがるだけであろう。最近はタカ派アメリカばかりが話題になるが、大統領選を前に、アメリカの市民に根づく政治参加について、もう一度考えてみるのも悪くない。